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超歌手のユートピアと実験(2017年3月22日)


 大森靖子のニュー・アルバム『kitixxxgaia』(計13曲+α)が3月15日にリリース。
「エイベックス商法」と称されるように、「(1)通常版(マグマ盤=CDのみ)」を含めて計4形態での発売。「(2~4)特別盤」には弾き語りによるボーナストラックがそれぞれ一曲ずつ付されており、さらに「(2)ガイア盤」では「ミュージッククリップ集DVD」と昨年の「ライブツアーファイナル公演(Zepp Tokyo)CD」、「(3)ドグマ盤」では「ライブツアー公演Blu-ray」、「(4)カルマ盤」では「年越しカウントダウンライブ、ファンクラブイベントなどの特別編集版DVD」が付く。

「ライブ盤DVD/Blu-ray」がもし独立して販売されるとしても「ライブ盤CD」もぜひ付けてほしいと願っていただけに嬉しい。ライブ盤CD自体がすでに時代遅れで旧世代の遺物であるのかもしれないが、外出先で聴くライブ盤は格別で、かつ飽きない。
 昨年3月にリリースされたアルバム『TOKYO BLACK HOLE』の全国ツアー(2016年10~11月)のために結成されたバンド「新●z(シン・ブラック・ホールズ)」は、『シン・ゴジラ』を連想させるいかにも即席の安易な命名ではあるのだが、今、奏でたい「音」、ライブ・パフォーマンスに必要な編成なのだろう。一貫して個人名義での活動を軸に展開してきているにもかかわらずわざわざ2015年初頭にバンド「大森靖子&The ピンクトカレフ」を解散させていることからも、新●zは実力派揃いのメンバーで、既発表曲も含めて新しいアレンジによりどのように曲が生まれ変わるか聴きごたえがある。
 大森靖子といえばギター一本の弾き語り(時に生ピアノも交えて)が一番良いという声は根強いが、バンド編成や会場のレイアウト、集う観客層によってまったく異なる面を見せてくれるのが彼女のパフォーマーとしての真骨頂である。たとえば代表曲「ミッドナイト清純異性交遊」はこのライブ盤も含めて複数のバンドによる音源がCD化(および公式配信)されているが、それぞれ印象がまったく異なる趣を楽しむことができる。一緒に演奏する者、それを共有する観客に応じて不思議なぐらい多彩な色合いを見せてくれる。

 ニュー・アルバム『kitixxxgaia』は産休からの復帰作となった前作『TOKYO BLACK HOLE』からちょうど一年ぶりとなる作品であり、共作曲、バンド編成の曲が多い点に最大の特色がある。前作が「都会に暮らす若い世代のそれぞれの生活」を、内面を掘り下げるように見つめ、「黒」を基調としていたのに対して、新作アルバムでは「極彩色」のジャケットがその対照性を際立たせている。
 コラボレーションを打ち出した3枚連続シングル企画での小室哲哉、の子(神聖かまってちゃん)との共作曲、映像作家t.o.Lによるアニメ『逃猫ジュレ』のテーマソングに加え、2月にジョイント・ライブを行ったDAOKO、昨年の生誕祭ライブでのセッションにて産み出された曲(「コミュニケイション・バリア」)もあり、さらにラストに配置された曲「アナログ・シンコペーション」では、ツアー・バンド新●zの面々、ソウル・フラワー・ユニオンの奥野真哉など複数の名前が作曲の共作者としてクレジットされている。2016年後半の全国ツアー、シングル連続リリース企画、および各種フェス、ジョイント・ライブなどと平行してこのニュー・アルバムの原形が作られていった背景ならではなのだろう。

『kitixxxgaia』は当初、カタカナ表記でリリース情報が発表されたものの諸般の事情でアルファベットによる表記変更がなされ、「キチ(基地/聖地)」+「ガイア(女神)」から成る造語による概念であるという説明が公式HPにて発表されている。
 産休中に制作されたことから「内」に向かう傾向が強かった前作とは対照的に、今作では「外」と繋がり音楽による交流(「シンコペーション」)を楽しんでいる様子が存分に伝わってくる。
 誰と、どのような類の要素と混ざろうとも受け入れる度量の広さと、そこに自分の色を重ねていくたくましさがより際立つ。「弾き語りパート」と「バンド編成」との合わせ鏡のようなライブの二部構成が端的に示すように、「内向き/外向き」のどちらの志向も大森靖子に欠かせないものだ。
 このタイトルであることによって制約や先入観が生じてしまうのは惜しまれるが、それぞれの場所で居心地の悪い思いをしているかもしれない人たちをも繋ぎ、誰をも排除しないユートピア的共同体として、「性別も国籍も超越した個性が削られない世界」=「キチ・ガイア」が構想されている。
 セッションや他のミュージシャンとの共作曲、多彩なアレンジャーの起用など従来に比しても多様性に満ちたアルバムとなっているが、「ガイア(女神)」を自任する大森が計13曲すべての歌詞を担うことで一見バラバラなそれぞれの世界を「繋いで」いる。
 「感情のステージに上がってこい」というナレーションで一曲目の「ドグマ・マグマ」がはじまるように、鼓舞され、煽られながらも、「キチ・ガイア」の世界の楽しみ方は人それぞれであり、それぞれがそれぞれのペースでそれぞれにとっての居心地よい場所を見つけ陣取ることができる。人って皆それぞれが違ってるからこそおもしろい。「超歌手」を名乗るだけあって、大森靖子の姿も決して一様ではない。

 前作『TOKYO BLACK HOLE』と比べると、統一感に欠け、散漫に見えるかもしれないが、外に向かって他者との軋轢をもおそれず交流の接点を探ろうとする大森靖子の「今」の姿がそっくりそのまま現れている。
 相変わらずライブやフェスの出演は多いし、楽曲提供のみならず音楽の枠をも超えた活動はむしろ広がる一方ですらある。それでも、「アナログ・シンコペーション」という曲が示すように、いかにも大がかりなタイアップとしてではなく、あくまで顔が見える「アナログ」な交流により、少しずつじわじわと広がっていく様がいかにも似つかわしい。
 ファンの中には様々な表現活動を志している若い世代も多いようだが、「いつか一緒の舞台で活動できるようにそれまでお互いに頑張ろう」と声をかけ励ましている姿をよく見かける。現実世界においてもユートピア共同体としての「聖地」は拡張しつつある。
十代の大森靖子がほぼ友達もなく過ごしていたらしいことが信じられないほど、その心臓の強さ、コミュニケーション・スキルの高さに圧倒される局面が多いのだが、周囲に群れずに「ぼっち」で孤高を貫くことは確かに精神的な強さに裏打ちされたものであるのだろう。

 新作アルバムで個人的に好きな曲は「コミュニケイション・バリア」。元「ふえのたす」のヤマモトショウによる作曲曲であり、昨年9月18日の大森靖子生誕祭(コピーバンド大会)にて「相対性理論を中心としたコピーバンドの部」でセッションした際の副産物であるようだ。男性教師を翻弄する17歳の女子高校生を描いた「子供じゃないもん17」(2014)の系譜に位置づけられる曲で、こちらも17歳の女子高生を主人公にしたストレートな青春もの。
 街で飛び交う言葉をそのまま曲に放り込んだような歌詞もあれば、こういうかわいい世界を言葉遊びをふんだんに交えながらポップに描くのも巧いのがずるい。

 大森靖子のファンクラブは「実験現場」と命名されており、月一回新宿(Loft Plus One)で開催されるトークイベントは「実験室」。2017年2月には大阪ではじめて「出張実験室」が開催され、会場(Loft Plus One West)にとっても初の試みとなる早朝8時スタートのイベントとなった。
 誰もやってないことをやるのは単純におもしろい。ファンクラブ創設一周年を記念して発行された会報には、会員を指して「実験現場被験者の皆さん」と呼びかけられており、そうか、我々は壮大な実験に立ち会っている被験者なのだったという思いを新たにする。
 誰も到達していない地平を目指して。












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もうすぐ10年かまってちゃん(2017年1月31日)

 2016年11月より展開されていた神聖かまってちゃんのツアー「めちゃ×2魔法を叶えてっ!ツアー」が1月29日、東京・EX THEATER ROPPONGIにて閉幕(札幌公演は3月に順延)。

 神聖かまってちゃんのライブを観るのは昨年9月に行われた渋谷のライブハウス「WWW X」以来およそ半年ぶり。配信や最近の状況を追いかけてなかったので、ヴォーカルの「の子」が眼帯をしている背景がわからなかったのだが、先行する福岡公演でギターのヘッドを左目にぶつけて5針縫うケガをしていたらしい。

 2008年結成のバンドなのでなんやかやで「10周年」。全員同い年のメンバーも30歳を超え「若手」の枠からは脱却していく段階。昔と比べるとちゃんと曲の進行ができるようになり、ハラハラ(イライラ)させられることはなくなってきたが、ものすごく饒舌に喋りながらも支離滅裂な「の子」のMCは相変わらずで、10年経った今でもこれだけ伝えたいことが多くありながらそれをどのように伝えられるかを模索し続けている様子が微笑ましい。
 「16歳の時に作った曲を歌えることを誇りに思う」と切り出してから、アンコールのラストの曲「リッケンバンカー」を歌いはじめたように、良くも悪くも洗練さとかけ離れたところで活動を着実に展開してきており、客層も多様になってきている。中高生女子とお母さんらしき組み合わせも! 世界からはみでた人たちの集いらしく、それぞれが勝手に楽しんでいい雰囲気で意外に居心地が良いのでは?

 音楽の幅も意外に広くて、代表曲「ロックンロールは鳴り止まないっ」から、観客の呼びかけに対し「集中したいから声かけるなよ」と言ってはじめた「背伸び」「ちりとり」と続くスローな曲がこの日のハイライト。シアターの特性を活かして映像を取り込んだ「コンクリートの向こう側」、アンコールの「マイスリー全部ゆめ」など音響が素晴らしい会場ならではの「じっくり聴かせる」演奏も新境地。通常のライブハウスではドラムがほぼまったく見えないのだが、後方からでもメンバーのそれぞれの演奏がよく見えるステージで、ぜひまたこの会場でやってほしい。
 北海道から沖縄までまわったワンマンツアーファイナルということで、ツアーを完走したことへの感慨が強調され、今年の目標に掲げられているニュー・アルバムや次の展開の話は出なかったが「10周年」をどのように迎えるか楽しみ。

大森靖子カウントダウン・ライブ(2017年1月1日)

 カウントダウン・ライブから帰宅。
なんやかやでアメリカ研修から帰国後、大森靖子・新宿でのイベントはマンスリー・ミーティング(定例「実験室」)も含めて皆勤できました。

 カウントダウン・ライブは2016年11月にメジャー・デビューしたアイドル・ユニットMaison Book Girlとの2マンライブ。
Maison Book Girlは大森靖子ファンにはPVでおなじみのコショージメグミを軸に結成されたグループで、いつもヘラヘラしてるコショージしか知らなかったので、すみません、なめてました。
まったく想像もしていなかったファン層で、かぎりなく岸和田だんじり祭りや騎馬戦に近い感じで、メンバーのMCの間すら「いいから早く(演奏)やれよ」と怒号が飛び交う荒々しさ。ほとんど暴徒。
なんなんだいったい(笑)。
空間認識もおかしくて、どんなにスペースが狭くてもおかまいなしで思い思いに踊りまくるので、鋭角的な動きが読みにくくて怖い(笑)。

 しかし、ロックやパンクが担ってた層がこちら(地下アイドル)に来てるのだろうか。
いいことかどうかわからないけど、ロックが小難しい印象を与えてしまっていて回避されてるのかなあ。
もちろん多様に細分化してるので単純化はしにくいわけですが。

 そんなこんなで2017年を迎えたのでした。







ストーンズ11年ぶりのニューアルバム(2016年12月30日)


 雑誌『ブルース&ソウル・レコード』(2017年2月号、12月24日発売)はローリング・ストーンズの11年ぶりとなるニュー・アルバム『ブルー&ロンサム』特集号で、詳細な各曲別解説はもとより、ユニバーサル・ミュージックとPヴァイン社の全面協力のもと、特典としてオリジナル・カバー曲すべてをアルバム順に収めたCD付!
 Youtubeなどでもオリジナルの楽曲と聴き比べることができるのが今の時代ならではの醍醐味なのだが、このような連携で音楽を多様に楽しむ下地を作り上げてくれる心意気が嬉しい。
 すでに様々に指摘されているように、ローリング・ストーンズの名前の由来になったマディ・ウォーターズ(1913-83)から一曲も選ばれていないのは意外だったが、マディ・ウォーターズのバンドにも参加していた伝説のハーモニカ奏者リトル・ウォーター(1930-68)から4曲採用されているなど現在のストーンズが何を古典に求めているかを探るのも楽しい。 

 2005年の『ビガー・バン』以来11年ぶりとなる本作は、もともとはオリジナルの楽曲によるアルバム制作の副産物としてもたらされたもので(「脱線」という言葉で説明されている)、レコーディング中に行き詰った際に気分転換としてカバー曲を演奏したところから急転直下に産み出された経緯があるという。わずか3日間ほどで一気呵成に録音されたというだけあって演奏の間違いもそのままの勢いで収録されているほどのライブ感が最大の魅力で、とりわけミック・ジャガーのヴォーカルが若々しい。ブルース・ハーモニカも冴えわたっていて、映像がなくともその得意満面な表情が浮かび上がってくるかのように、楽しそうにセッションを楽しんでいる様子が存分に伝わってくる。
 ロンドンのグローヴ・スタジオで録音していたら、たまたま隣のスタジオに来ていたエリック・クラプトンも誘って一緒にセッションしたという「偶然」までもが運命的に映る。

 22年ぶりに英国アルバム・チャートで1位(日本のオリコンチャートでは洋楽部門で3位)を獲得するなどセールスが好調なのもなにより。キャリアも50年を超え、今さらチャートの順位や売上を気にしなければいけないわけでもないのだが、第一線の現役であり続けていることの指標になるものであり、オリジナルで勝負できないからではなく、カバー・アルバムがむしろ挑戦であったということは重要な意味を持つ。
 ローリング・ストーンズはライブのセットリストも保守的でヒット曲で固めるのが基本。「構想50年」というキャッチコピーが示すように、ブルースのコピー・バンドから出発したことからも、いずれはブルースの原典に立ち戻りたいという想いは実際にあったのだろうが、全編古いブルースのカバー・アルバムを現役第一線のバンドとして出すだけの自信をようやく持つことができるようになったということでもあると思う。
 これまでもシングルとして発表されたソウルのカバー曲「ハーレム・シャッフル」(1986)や、ライブ盤に収録されているマディ・ウォーターズ「マニッシュ・ボーイ」(『ラブ・ユー・ライブ』1977)、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズ「ゴーイング・トゥ・ア・ゴー・ゴー」(『スティル・ライフ』1982)などここぞというところでカバー曲も有効に導入されてきているが、あくまで一部のコーナーにすぎない扱いであり、カバー曲中心であったデビュー・アルバム(1964)においても自作曲「テル・ミー」を含んでいたことから、全編カバー曲によるアルバムは50年を超えるキャリアではじめての試み。

 それにしても結成50周年ライブ、過去の音源のアーカイブ化、展覧会開催がこのような形で結実するとは! 2016年だけでも「展覧会」(Exhitionism、ロンドンでスタートし、現在はニューヨークで開催中)、キューバでの記念碑的フリー・ライブとその映画化(『ハバナ・ムーン ストーンズ・ライヴ・イン・キューバ2016』)+中南米ツアーを題材にしたドキュメンタリー映画『オレオレオレ ア・トリップ・アクロス・ラテン・アメリカ』制作、過去の音源のアーカイブ化として、『トータリー・ストリップド』(1995年のセッション)に、1960年代の音源をモノラルヴァージョンでまとめた15枚組ボックスセット『THE ROLLING STONES IN MONO』発表・・・と、買う(高い!)のも、聴く(量が多い!)のも、寺田正典氏の膨大な解説を読むのも(ありがたい!)、追いつかないほどの嬉しい悲鳴の連続。
 ほか、クラシック・ロックの祭典「デザート・トリップ」(10月7日)に登場し、ビートルズのカバー「カム・トゥゲザー」をはじめて披露したことに加えて、ロン・ウッドに双子誕生、ミック・ジャガーに第8子誕生などもあり、話題に事欠かない一年だった。構想されていたはずのオリジナル楽曲によるニュー・アルバムに、新たなワールド・ツアーも期待が高まる。ラスト・ツアーと言われながらもすでに30年ぐらい経っているが、最年長のチャーリー・ワッツも75歳であり、さすがにいよいよ最終局面か。

 アルバム発売のニュースが公表されて以後、インターネット上の公式HPやSNSなどではアルバムのタイトルにあわせて、ブルーに彩られたおなじみのロゴ・マークをはじめとするマルチメディアを駆使した広報戦略は相変わらずお見事。とりわけ日本のアパレルメーカーによる公式グッズは気が利いたものが多く、アルバム発売を記念したストアも充実。
 ロンドンでの展覧会を見学してあらためて実感したが、音楽面でもブルースを基調に、ロック、ソウル、スワンプ・ロック、カントリー&ウェスタン、キースが傾倒するレゲエ、チャーリー・ワッツが傾倒するジャズなどその一般的なイメージよりもはるかに多彩で、なおかつショービジネス、大衆文化への影響、関連も皆が想像する以上に深い。

 ニュー・アルバム『ブルー&ロンサム』からオリジナルのブルースの世界と聴き比べることで双方の特色も見えてくるし、初期60年代ストーンズを聴き比べることで50年の年輪を探ることもできる。ブライアン・ジョーンズってやっぱりセンスあるんだなと実感するなど無限ループのようにどっぷり楽しめる。














1987年の忌野清志郎(2016年12月2日)


 なんと唐突にムック本『1987年の忌野清志郎』(三栄書房)発売!これは嬉しい。
 初のソロアルバム『RAZOR SHARP』(1987年2月)発売から30周年を記念した企画であるようだが、ロックTシャツブランド「Amplifier」によるムック本の第一弾と銘打たれており、写真家・有賀幹夫氏による「忌野清志郎ソロライブフォト」をもとにしたTシャツが製作・販売されたことを背景としているようだ。Tシャツ付きの「特装版」も同時発売。
 有賀氏は1990年以降、現在に至るまでローリング・ストーンズの専属写真家として知られるが、RCサクセションの1986年日比谷野音ライブおよび1987年の忌野清志郎& The Razor Sharpsのライブに公認カメラマンとして随行している。没後の2010年には「NAUGHTY BOY忌野清志郎+有賀幹夫写真展」を開催しており、このたびのムック本ではその際に展示の用意が間に合わなかった写真がふんだんに掲載されている。

 このムック本の白眉となる「トークセッション『RAZOR SHARP』の忌野清志郎」では、当時の所属レコード会社・東芝EMIのディレクター(熊谷陽)、宣伝担当(近藤雅信・高橋ROCK ME BABY)、音楽評論家(今井智子)によって、当時のソロプロジェクト活動の実態が再検証される。アルバム『RAZOR SHARP』は、単身でロンドンに渡った清志郎が、当時、実質上、活動休止状態にあった英国のバンド、ブロックヘッズを中心にしたミュージシャンと共にレコーディング・セッションを行ったプロジェクトによるもので、1987年2月のアルバム発売後、3月にはバンドメンバーと共に「来日」し、東京・大阪・名古屋にて計6公演のライブツアーも展開している。そのうち中野サンプラザ公演(1987年3月25・26日)をもとにライブアルバム(およびビデオ)『HAPPY HEADS』も制作されている。ちなみにブロックヘッズはこのプロジェクトを契機に再活動をはたしており、双方にとって大きな影響を及ぼしたセッションになっている。

『RAZOR SHARP』以前にも、「外での清志郎が一番かっこいい」と当時よく言われていたように、坂本龍一とのコラボレーション「い・け・な・いルージュマジック」(1982)、どくとる梅津バンドとのジョイント・アルバム『DANGER』(1982)、ジョニー、ルイス&チャーとの共作「S.F.」(1986)などソロ活動も活発になされていたわけだが、単身で海外にわたり、現地の、しかもキャリアのあるミュージシャンとセッションし、意気投合して「来日公演」まで行うというのは、確かに忌野清志郎全キャリアの中でも大きな分岐点に位置づけられる。
 佐野元春が一年間、ニューヨークに滞在した成果としてアルバム『VISITORS』(1984)を発表し、サザンオールスターズもLA録音によるシングル「Tarako」、ビデオクリップ集『サ吉のみやげ話』(1984)などをもたらしているように、海外レコーディング(マスタリング)が盛んに試みられていた時期で、もともとはRCサクセションによる企画であったが、メンバーの足並みが揃わずに結果として単身での渡英となった背景があるようだ。
 80年代半ばは「第2次ブリティッシュ・インベイジョン」とも称されるようにアメリカの音楽市場でイギリスのバンドが目立って活躍していた時期でもあるのだが、アメリカ南部のソウル・ミュージックへの愛着を公言していた清志郎がこの時期にロンドンに向かったというのも運命的でおもしろい。ブロックヘッズとの共演の背後にカズ宇都宮氏がコーディネーターとして尽力していたという事実はこのたびはじめて知った。制作秘話・裏話も30年経ってすでに歴史的証言と化しており、「1987年の忌野清志郎」と銘打つのにまさしくふさわしい貴重な資料集になっている。

 RCサクセション期(1970-90)のベストアルバムを挙げるとすれば、私の世代だとリアルタイムでは「い・け・な・いルージュマジック」(1982)以降になってしまうので、ライブアルバム『The King of Live』(1983)、『the TEARS of a CLOWN』(1986)の思い入れが強いのだが、一枚挙げるとしたら、一番好きなのはこのソロプロジェクト『RAZOR SHARP』。テレビのバラエティ番組などにも積極的に露出していた時期で、華やかでありながら、それでいてなんだかもの静かで奥ゆかしい不思議な魅力にあふれていた。
 実はバンド(RC)があまりうまくいっていなかった時期で、単身渡英の挑戦ももともとはRCの企画が頓挫した結果によるものだったと明かされるのは大分後になってからのことで、当時は多彩な活動の一環という認識でしかなかった。それでも、時にシニカルに、時にシリアスに、あるいはユーモラスに、コミカルに、孤高を突き詰めるような歌詞の世界に覚悟と活力をなんとなく感じ取ることができていたようにも思う。『RAZOR SHARP』からのシングル曲「AROUND THE CORNER/曲がり角のところで」が象徴的に示すように、忌野清志郎全キャリアの中でもまぎれもない分岐点(曲がり角)となっていたことを十二分に実感させてくれる。しかし、そうはいっても『1987年の忌野清志郎』などという、こんなマニアックなムック本を豪華な装丁と紙質で楽しめるのはありがたく、幸せなことである。
 ゆっくりとじっくりとアーカイブ化が進んでいるのも嬉しいかぎりで、いずれ音源の方もスペシャル・アーカイブ盤の登場を待ちたい。『ザ・タイマーズ・スペシャル・エディション』に続いて、HIS(細野晴臣・忌野清志郎・坂本冬美)のアルバム『日本の人』(1991)が25周年記念盤として12月14日に再発されるとのことで、こちらもまったく予想外のサプライズ。












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