借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2016年5月7日

 サンノゼ州立大学(カリフォルニア)にて国際スタインベック学会開催(5月4~6日)。サンノゼでの学会は当面3年毎を予定しているので前回は2013年。カリフォルニア州ベイカーズフィールドでの学会を2014年に挟んでおり、近年、米国でも人文系、とりわけ作家研究は低調気味と言われている中で学会誌『Steinbeck Review』も充実しており、活発な活動が続いている。スタインベックの郷里サリーナスにて毎年5月に開催されているスタインベック・フェスティバル(6~8日)との連動企画であり、さらにサンノゼ州立大学での文化芸術イベントとも合わさって、学会後は演劇やポエトリー・リーディングなども楽しむことができる。日本からの参加者は私も含めて4名。日本ジョン・スタインベック協会は40年の歴史を持ち、英文会誌『Steinbeck Studies』も近々40号の刊行を迎える。
 サンノゼ州立大学図書館はスタインベックとなぜかベートーベンのコレクションを擁しており、学会初日は「恋するベートーベンの夕べ」という音楽リサイタルもプログラムに組み込まれていた。また、日系コミュニティの歴史を有することから日系アメリカ人をめぐる研究も盛んであり、紹介していただいた図書館のラルフ・ピアース( Ralph M. Pearce )さんは、『San Jose Japan Town 』(2014)などこの領域で複数の著書を持つ方で、中でも日米野球史における人材交流、海外遠征にまつわる研究書『From Asahi to Zebras: Japanese American Baseball in San Jose, California』(2005)は興味深いものであった。

 私自身の発表は「スタインベックにおけるホーボー像がアメリカ大衆文化に与えた影響について主に『ルート66』の想像力」を軸に探るというもの。「アメリカ大衆文化における放浪者/ホーボー表象研究」の中でもスタインベックは映画による受容が大きな役割をはたしており、作品においては労働や社会問題がはっきり描かれているにもかかわらず、その後の受容において労働や社会問題の痕跡が薄まっていく/抹消されていく傾向があり、その変遷は興味深い論点になりうるもの。
『怒りの葡萄』(1939)にしたところで、大不況の中、資本主義農業の発展に伴いはじき出されてしまった土地を所有しない一家が仕事と家を求めてルート66を経て流浪する物語であり、しかも物語の結末に至るまでその目的は達しえないのだが、アメリカの夢/約束の地を信じて移動し続けるその姿は、時に自由を求めて移動する放浪者の姿に置き換えられ、現在のアメリカの物語として継承され続けてきている(アニメーション『サウス・パーク』(2008)のようなパロディの形も含めて)。

「ルート66だったらこの図書館に土が保存されてるよ」と教えていただいて、よく見たら図書館のスタインベック・コレクション特別室のすぐ脇に何気なく土が陳列されていて、これは3年前に訪問した際には気づかなかった。
 ルート66(国道66号線)は1926年に国道に指定されて以後、小説『怒りの葡萄』(1939)において「母なる道(マザーロード)」として大きく取り上げられており、とりわけジョン・フォード監督による映画版(1940)にて実写の中にその光景が描き込まれたことは、ウディ・ガスリーによる音楽をはじめ、大きな影響を及ぼしている。ルート66はその後、国策としての州間高速道路「インター・ハイウェイ」の発展・拡充に伴って衰退していき、1985年に役目を終え廃線となったのだが、1990年以降、ルート66保存協会などの動きにより、一部が「歴史的街道」「景観街道」に認定され、その足跡を辿ることができる。
 ローリング・ストーンズのデビュー・アルバム(英国版)『ザ・ローリング・ストーンズ』(1964)の一曲目がカバー曲「ルート66」であり、英国出身の彼らによるアメリカの音楽文化への憧憬が象徴的に表れている。ジャズのスタンダード・ナンバーとしてのナット・キング・コール版(1946)、先行するチャック・ベリー版(1961)よりも軽快なトーンが特徴的で、ポップ・カルチャーにおける「ルート66」表象にいかにも似つかわしい。

 3月のアメリカ研修滞在時にルート66の足跡を辿ろうと、その一部が残っているアリゾナ州セリグマンの街を訪れたのだが、ルート66の保存に尽力した伝説の理髪店「エンジェルズ・ショップ」は観光の拠点になっている。もともとは『ルート66』という題名で制作が進んでいたというディズニー(ピクサー)映画『カーズ』(2006)のモデルになったのもこの街で、実際に至るところに古い車が無造作に置かれている。
 ストーンズがそうであったように、アメリカを外側から見る視点の方がルート66に対してアメリカ文化への憧れを重ねて見る傾向があるのかもしれず、日本人の間で特に人気が高い観光名所になっている。とはいえルート66への憧れといったところで私自身、自動車免許すらないわけで、LAのサンタモニカあたりで標識を占拠する日本人観光客の思い入れといってもたかがしれているかもしれないのだが、それも含めてわかりやすいアメリカ文化のアイコンとしてあり続けており、ディズニーランドの受容がさらに拍車をかけている。 
 アナハイムのディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーでは「カーズランド」と共に「ルート66」のショップが人気で、すでに失われている光景に想いを馳せる若い世代もさらにここから生まれてくるのだろう。

 このたびのスタインベック学会はイスラエル、インド、アルジェリアなど多彩な研究者による発表が目立ったのが最大の特色で、「『怒りの葡萄』におけるイスラムのエコー」などという視点は考えたことがないものだったこともあり、とりわけ新鮮だった。
残念ながら私はサリーナスのフェスティバルに向かう日程的余裕がなく、代わりに半日空いた時間でマーク・トウェイン協会の会誌最新号や翻訳書『ポケットマスターピース マーク・トウェイン』(柴田元幸訳、集英社文庫)などを届けに3月まで滞在していたUCバークレーへ。母校というわけではないのだけれど、ふらっと訪れて迎え入れてくれる拠点ができたのはとても嬉しい。
 次回の国際スタインベック学会は同じサンノゼ州立大学にて3年後の2019年を予定。2018年にスタインベックは没後50年を迎えることから日本スタインベック協会でも記念事業を準備中。スピルバーグが『怒りの葡萄』のリメイク映画製作の構想を2013年に発表してからその後、進展を聞きませんがそれはもうぜひ実現してほしい。







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