借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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ちょっと普通じゃないのがすごい(2016年5月23日)


 「劇団とっても便利」による5年ぶりの新作ミュージカル『カフェ・ママン』がスタジオ・ヴァリテにて5月19~22日まで公演。1995年に京都大学にて旗揚げされた劇団も早20年を超え、出発点となる京都大学近くに位置するスタジオ・ヴァリテでのホームグラウンドに戻り、「原点回帰」の意味を込めたという。プロデュースや著述・国際的なチャップリン研究など多方面で活躍している主宰の大野裕之のみならず、劇団の主要メンバーも古典劇を含む劇団外の舞台や映画出演など順調に活動の幅を広げてきているのだが、ここ数年の多彩な活動の成果を待望のオリジナル新作公演で発揮してもらえるのは嬉しいかぎり。
私が劇団とっても便利の公演に触れたのは2001年の新宿タイニイアリスでの『バイセクシュアルな夕暮れ』が最初であり、小劇場が原体験となっていたこともあって、このたびの物語および郷愁を誘う音楽の効果も相まって、ふと居心地のよい懐かしさにとらわれる。ロンドン・ミュージカルによる影響を出発点にしてきたことからも社会派の題材をミュージカルの現代劇として表現することで独自の領域を広げてきた劇団であるだけに、久しぶりの新作公演ということで「現代」「社会」を今どのように切り取る/描くのだろうかという関心を強くもっていたのだが、ノスタルジックな要素もまた初期から得意としてきたもので、その点でも原点回帰にふさわしい作品となった。

 『カフェ・ママン』の物語の主人公である百代(佐藤都輝子)と、少女時代から姉妹のように家族ぐるみで育ってきた幼なじみ、円(まどか)(上野宝子)の2人は、アルバイトとして厨房を担当する青年「じろう」(多井一晃)と共に、百代がとりしきっている「カフェ・ママン」で日常を過ごしている。円は小説家志望で店に入りびたり、パソコンを抱えながら文章を常に書き続けているが芽が出ないままでいる。百代の方は少女時代に大好きだったママ/母親の想い出がつまっているカフェの空間を大事にするあまり、経営難を自覚しながらも変化を好まず現状に甘んじている。実際に少女時代役の役者を併置させながら、現在と過去の回想とを交錯させることで、幼なじみとしての2人の関係性が複層的に表されている。
パパ(中島ボイルももう父親役!)が亡くなったママそっくりの再婚相手を連れてきたところから物語は展開していくのだが、あらすじの紹介ではうまく伝わらない、ゆるやかな時間の流れ方は、現在の劇団主演女優である佐藤都輝子のキャラクターによるところが大きいのだろう。すでに実績も相応に積み上げてきているはずであるが、いつまでも擦れた感じがしない独特のやわらかい雰囲気で、「変わらないままでいたいこと」と「それでも変わっていってしまうこと」の狭間で揺れる役どころを好演している。幼なじみである円とは子どもの頃から言いたいことを言い合える仲であるが、大きな変化が起こっていく中でその関係もぎくしゃくしていってしまう。

 劇団とっても便利は20周年といっても、学生劇団から出発していることからもメンバーの移り変わりも激しいようであり、これまでも公演毎に客演やオーディションによる新たなキャストも加わりながら発展を遂げてきた。本公演でも劇団のコアメンバーが個性的な演技と役どころでリードし、新しい顔ぶれの新鮮な持ち味をうまく引き立てている。不思議なぐらい本公演では男女のカップルが出てこないのだが、多井一晃と鷲尾直彦による「やさしさ」と「傷つきやすさ」とを繊細に描く名場面をはじめ、親子であれ、親友/友情であれ、関係性の機微や、環境や歳月の変化に対する戸惑いなどの細やかな心情の変化、感情の発露がミュージカルならではの多彩な歌と多様な手法によるダンスによって表現されている。ホームグラウンドである小劇場だからこそ狭いスペースを存分に効果的に駆使しながら展開され、個々のキャストの動きや生の歌声をじっくりと鑑賞できるのも魅力。
二幕構成の中でモチーフとなる音楽やダンス表現、物語のトーンなども起伏に富んでいるのだが、プロットや小物の細部にわたるまで巧みに構成されており、2時間を超える上演時間があっという間に過ぎてしまう。群集劇であり、キャストが複数の役柄を演じていることもあり、この劇団が得意とする複数の場面が同時に展開される手法など、複数回同じ公演を観ることでより一層味わいも増してくるだろう。

 これまでの作品においても若い世代の登場人物たちが大人になっていく瞬間を捉えようとするところに特色があったが、劇団が歳月を重ねてきたことにより、「成熟」の要素も主要なモチーフとして表れてきているのが本作の特色。変わらないことを望み、懐かしい雰囲気に包まれながらも、それでいて単なるノスタルジアに留まらず、これから新しい世界が開けていくのではないかという予感を、少女時代役の2人の子役女優(田中里奈・川口真菜)が象徴しているように思う。物語上、少女時代は過去の回想という位置づけであり、もう戻れない過去の姿でもあるのだが、実際に舞台で伸びやかに演じられるとその溌剌さが印象として強く残る。劇団とキャストが歳月を重ねていくことによる「成熟」と、対照的な「若さ」とがここでもうまく引き立て合っている。ほか、セラピストの資格を持つという女性弁護士役の高島怜奈は声楽を専攻しているそうで、新たな顔ぶれも個性的で多彩さが際立っている。

 ミュージカル自体はじめてという若い世代の観客も多く、帰り道、興奮しながら感想を喋り合っている姿が印象深いものであった。
「キュートすぎて、ちょっと普通じゃいられないみたい」という挿入歌のフレーズがまさに示すように、劇団とっても便利の作品世界は、キュートでキャッチーな曲を軸に、「ちょっと普通じゃない」感じの物語展開やテイストを織り交ぜていくところにその独自性がある。本作の再演も含め、今後もコンスタントに公演を発表していってほしい。
(『カフェ・ママン』[全6公演]作曲・脚本・演出 大野裕之、2幕、上演時間2時間10分)

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