借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2015年6月2日

 ローリング・ストーンズの曲は、ビートルズと同じようにジャガー/リチャーズの連名で作詞・作曲表記がなされており(通称「グリマー・ツインズ」)、キース・リチャーズ主導で作られた曲に、ミック・ジャガーが歌詞をのせるスタイルが多いものの、法則が定かに決まっているわけでもなく、また、年代によってはセッション形式で曲を作り上げていくために曲の生成過程自体を探るだけでもとても難しい場合が多い。ボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンについて詩人/文学者の観点から詩(詞)の分析ができるようにはいかないところもストーンズの厄介なところで、1960年代の若者の虚無感を描き、時代を象徴する「サティスファクション([I Can’ Get No] Satisfaction, 1965)」、「無情の世界(You can’t Always Get What You Want, 1969)」などの代表曲を持ち、あるいはウィリアム・バロウズ(『シティーズ・オブ・ザ・レッド・ナイト』1981)に触発された「アンダーカヴァー(Undercover of the Night, 1983)」や、カットアップの手法により歌詞を先鋭化するなどの実験的手法を織り交ぜながらも、その歌詞に対する分析に焦点が当てられることは不思議なほどないままであり続けてきた。
 5月24日より「Zip Codeツアー」と名づけられた北米ツアーがスタートしており、さらに自身のレーベルの第1作となる記念碑的アルバム『スティッキー・フィンガーズ』(1971)のスーパー・デラックス・エディションが発表されるに伴って、にわかにストーンズ研究も活況を呈してきている。中でも雑誌『レコード・コレクターズ』(2015年6月号)の特集号は相変わらず素晴らしく大鷹俊一氏、寺田正典氏をはじめどの記事も読みごたえ充分。
 私はリアルタイムでは『アンダーカヴァー』(1983)以降であり、ミュージック・クリップとの連携を強めていた時期であると同時に、その後のミック・ジャガーによるソロ活動の展開など「冷戦」とされる時期を原初の体験としていることもあり、少なくともロン・ウッド加入後(1976- )の時代しか体験としては知らず、『スティッキー・フィンガーズ』の奥深さを正直なところあまり咀嚼できていなかったのだが、『レコード・コレクターズ』特集号にてとりわけ興味深かったのはアメリカ文学研究者・飯野友幸氏による「ブラウン・シュガー」の歌詞に関する分析(「イン・コールド・イングリッシュ・ブラッド――『ブラウン・シュガー』の歌詞を読む」)であった。
 ライブにおいて最大の見せ場の一つとなるのが、「ブラウン・シュガー」(1971)であり、ミック・ジャガーに煽られ、観客は皆、歌いながらジャンプする。前レーベルと新しいレーベルとを繋ぐ重要な曲として位置づけられるこの曲であるが、その歌詞の内容については何か「不穏な」内容が込められていることは察知しつつも、多くの熱心なファンにとってもその「不穏さ」の中味まではよくわからないままであり続けているのではないか。
 「酒池肉林の世界とアメリカ史の南部」という小見出しが示すように、そこで描かれている奴隷制度化の記憶と植民地時代の歴史の暗部は、60年代のテレビ番組出演時に歌詞を変更させられた「夜をぶっとばせ」(Let’s Spend the Night Together, 1967)の比ではないほど「危険な」歌詞であって、そもそも「ブラウン・シュガー」自体がアメリカ南部の奴隷制度時代における主要農作物(砂糖)を示すと同時に「褐色の肌をした女性」の暗喩にもなっている。飯野氏が鋭く指摘するように、「南部への憧憬と忌むべき過去(そして現在)を利用して金儲けしている」自分たち自身への意識も投影されているにちがいない。音楽の方向性としては本作以降、アメリカ深南部への憧憬を追求していくことからも、そして自身のレーベルからの第一弾シングルとしてこの曲が発表されていることからも、当然のことながら重要な位置づけにあるこの曲に、アメリカ人ではない(「宗主国であった『冷酷な』イギリス人の血」を引く)立場である彼らがアメリカの音楽に傾倒していくことに対する「覚悟」を読み込むことはとても納得のできるものである。2番の歌詞で突如、登場する「私」の人称に対する注目など興味深い指摘が多くなされている。
 いやー、深いですね。そうはいってもやっぱり深くない詞も多いのがストーンズの歌詞の厄介さなんですけどね。




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