借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2015年9月7日

 遊びに来ているはずの訪問先で小さな学会が開催されていて、いろいろな奇縁も重なり、米国地理言語学会(American Society of Geolinguistics)という学会の年次国際大会で「2.5次元ミュージカル」について発表してきました。

 言語学の学会は参会自体ほぼはじめてで、方法論があまりにも違いすぎるので本来は発表など到底できるものではないのだが、「地理言語学」というゆるやかな概念による国際学会であり、様々な国や地域の言語と文化にまつわる研究発表が可能であるとのことで、多彩な顔ぶれが集っていておもしろい。
 大いなる奇縁の一つは、勤務先の大学で、学部が異なるアメリカ人の同僚がこの学会と長年、強い連携を保っており、毎年、大学院生がこの年次大会で研究発表をしていること。彼の指導院生が今年も何人かニューヨークまで発表に来ていて、モンゴル、上海、ロシア、ネパールなどからの留学生。多彩な留学生がいると噂には聞いてたけど、学部が異なることもあり実際に接するのははじめて。せっかく異文化理解の生きた教材が同じ大学にいるのになかなか他の学生と交流する場がなくてもったいない。

 今年の年次大会のテーマは「言語・科学と新しいテクノロジー」。「言語」「テクノロジー」と絡めて何ができるかなと思案した結果、最近の「2.5次元ミュージカル」の流行について話をすることに。「日本のコンテンツビジネスを海外に」というコンセプトで日本2.5次元ミュージカル協会が設立され、専用のシアターもできて、専用メガネ(他言語対応字幕システム「Zimaku Air」)では4か国語の字幕翻訳により観劇を楽しむことができる。英語以外の外国語文化の流通というのはどうしても難しく、近年の日本のマンガ/アニメにしても基本は翻訳・吹替を通しての受容。日本国内と海外での両方の興行展開を視野に入れたプロジェクトであるようだが、やはり言葉の壁は大きく、役者が英語で演じるかどうかという問題が焦点になってくる。
 この専用メガネでは字幕が浮き上がって見えるので、舞台上の字幕装置を見る時のように注意力を妨げられずにすむし、日本語によるパフォーマンスということで「本場らしさ」を魅力として売り出すことができる。日本語日本文化に対する興味を広げてもらえる期待ももてるし、観光がてら日本で2.5次元ミュージカルを見てみようという層も出てくるだろう。出版社の垣根を超えた連携も重要で、版権などの権利関係の手続きもシステム化され簡便になり、ビジネスモデルとしての可能性を広げることができる。

 「2.5次元ミュージカル」の主な観客層は女性で、舞台化される作品として、男子の部活青春ものが多い傾向がある。このたびの発表で具体的に取り上げた作品は『テニスの王子様』(原作は『少年ジャンプ』)と『弱虫ペダル』(『少年チャンピオン』)で、前者は現在に至るブームの下地となった作品。今ではチケット確保が困難であるが、2003年にミュージカル化をはじめた当初は3分の1しか席が埋まらないこともあったという。『弱虫ペダル』はロードレース部の話であるが、パントマイムによる実験的な表現手法(「パワーマイム」)など先鋭化された演劇表現の観点からも注目されている。
 若い役者を積極的に起用し、若い観客が多いことからも、マンガ/アニメ/演劇をジャンル横断する場としても機能している。ファン・コミュニティとしてSNSを通じた共時性も魅力であり、さらに、ブログなどを通して生身の役者自身に対する関心を広げられる楽しみもある。
 2.5次元ミュージカル以外にも、学校を舞台にした女子高校生のアイドル活動を描いた『ラブライブ!』(2012- )のように、アニメ化される時点から声優によるライブ・パフォーマンス、CD化などのマルチメディア展開を想定したプロジェクトもあるわけで、こちらは主なファン層は男性。こうした2.5次元の様々な展開にジェンダーによるファンカルチャーのあり方の違いを読み込むことができるのかどうか?

 唐突に古い例になるが、私でいえば、『うる星やつら』については原作(新装版も含めて)はもとより、アニメ・コミック版、小説版、英語版まで公式出版物はすべて所持していたし、小5から高校ぐらいまではペンケースや下敷きなども概ね学期毎に『うる星』で新しいものに替えていたぐらいなので(『めぞん一刻』や『らんま』の時期もあったけど)、今も当時もミュージカル版があれば確実に観に行くだろうが、私は高橋留美子原理主義者の立場ということもあって(アニメ版・映画版の世界観を基本的には認めない)期待はまったくしないだろう。
 ラム、しのぶ、ラン、弁天、おユキ、竜之介、サクラなど女性キャラがたくさん出てくるが、意外に「キャラ萌え」の作品ではないという認識でいるのだが、読み手によるのかな? ペンケースや下敷きなどを学校で使ってたので、「あんたもラムちゃんとか好きなのか?」と女子に小ばかにされることもあったが、あくまで全体で世界観が成り立つものであって、誰か特定のキャラが好きというわけではないと力説していたものだ。今から思えば、「物語派」と「キャラ萌え派」の断絶というよくある図式にすぎないのかもしれないし、コタツネコ好きは公言してたけど。
 一方で『うる星やつら』はコスプレなどの先駆的素材でもあるし、ファンカルチャーの親和性が高いこともあり、男女ともにファンが多い作品でもあり、これが「現役の作品であったとしたならば」はたして2.5次元化でどのような客層を見込めるのだろうか? あるいは古典となる作品で上の年齢層を狙う戦略は成立するのかどうか? 『うる星』の場合、部活などのように何か共通の目的に向かって邁進するような話ではないし、やっぱり題材としては不向きかも。

 さらに話を広げて、「2.5次元ミュージカル」が次の段階に進む際にどのように男性客を取り込むことができるのか、できない(想定しない)のか、性別に特化した戦略が今後も有効なのか、など引き続き考えてみたい。
 なおこの領域にまつわる研究動向に関しては、『ユリイカ 2015年4月臨時増刊号 総特集◎2・5次元――2次元から立ちあがる新たなエンターテインメント』の特集が多彩な面からの情報量かつ示唆に富んでいて便利。










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