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借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2015年10月15日


「短い歌なのにいつまでも終わらない 私はいつまでもかけらを捜してる」
――薬師丸ひろ子「未完成」(1987)

「薬師丸ひろ子コンサート2015」が大阪オリックス劇場および東京Bunkamuraオーチャードホールにて開催。2年前のデビュー35周年記念コンサートは23年ぶりのコンサートとなったこともあって特別感に満ちていたが、今回は特別なコンサート名も付されておらず、グッズもプログラム(パンフレット)の販売もなく、会場に看板となるようなパネルなどもなく、来場者が戸惑うほどそっけない感じ。それだけ歌手としての活動がもはや特別なものではなく軌道に乗ってきたことを示すものではあり、余計な装飾によるものではなく、歌のみで勝負したいという気持ちの表れでもあるのだろう。個人事務所であることもあり、適正規模で自分が納得できる仕事を大切に継続していこうとする姿勢も彼女らしい。最近の女優・歌手活動の好調ぶりもあってか、チケットは2年前よりもはるかに取りにくくなっているのかもしれない。2013年の際はセンターで最前列近くという良席だったのだが、今回は2階席でそれはそれで会場の全体を展望することができて堪能できた。
 心なしか表現力が増しているように感じたのだが、本人も自覚があるようで「最近、犬の散歩をしてるので2年前よりも体力がついた」とのこと。活字に起こしたら何のおもしろみもないようなお喋りが表しているように、終始リラックスした雰囲気で展開されるのも心地よい。昔、日曜にパーソナリティをつとめていたラジオ番組を思い起こしていたのだが(アルバム『夢十夜』[1985]所収の「スマッシュ・ボーイの微笑み」がコーナーの切り替えに使用されていた記憶があるので85年頃?)、印象が変わらないのがすごいというか何というか。「薬師丸ひろ子 あなたに・愛・わいわい!」(ニッポン放送)ってこんなタイトルだっけ? 覚えてないなあ。中学に入って部活の練習が入るまでずっと聴いてたはずなんだけど。
 チケットの値段も8940(やくしまる)円で、アイドル時代の野球チームでも背番号は8940だったのだが、まだやってるのか(笑)というこの不思議な時間の浮遊感も素晴らしく、通常は子どもの頃にファンだったアイドルのコンサートを私のこの年齢で観に行けるなんて夢のような話であるわけで、51歳ですか。いやはや。年齢も時間も超越した感じでなんだかすごい世界だなあ。コンサートでは往年の角川映画時代の主題歌を中心に20歳前後で歌っていた曲が中心になるけれども、楽曲提供者がよってたかって早く大人にさせようとするかのような内容の歌詞が多かった。「メイン・テーマ」(1984)の有名なフレーズ「20年も生きてきたのにね」という歌詞を何の衒いもなく今でも歌えるのも清々しい。単に懐メロとしてではなく、今の年齢の彼女だからこそ表現できる曲として提示できているところに歌手としての成熟を見ることができると思う。

 大阪の方がMCも演奏曲数も若干多かったかな。「セーラー服と機関銃」をアレンジ違いで2回やったし。ステージ映えする曲というのは確かにあって「語りつぐ愛に」(1989)、「僕の宝物」(2011)、中島みゆきのカバー曲「時代」(薬師丸版は1988)などは圧巻。カバー曲も文部省唱歌「仰げば尊し」、尋常小学唱歌「故郷」(「兎追ひし彼の山」)だったりするので、ある意味ぶっとんだ独自の世界観というか・・・。
 今回のコンサートの白眉となったのは、30年近くぶりに披露された中島みゆきによる提供曲「未完成」(アルバム『星紀行』[1987]所収)。私は当時、直接、観に行けてはいないものの唯一発表されているライブアルバム『87薬師丸ひろ子ファーストライヴ星紀行』(1987)を通してこの曲を何度も聴いていたこともあり、とりわけ感慨深かった。大阪のオリックス劇場での公演終了後、iPodに入っているこのライブ盤を聴きながら帰路についたのだが、若い時のか細く未消化な感じもそれこそ「未完成」であるところに魅力があり、一方、今は今で声は低くなったけれども落ち着いた雰囲気で声量と表現力に奥行きがあり、どちらも味わい深い。
それにしても本当に便利な時代になったものだ。私のように「No Music No Life」などからはるかに隔たった者でさえも、数年来iPodを使っていればアルバムが400枚分ぐらいは累積されていくわけで気軽にその時の気分で懐かしいと思う曲を瞬時に取り出すことができる。1987年当時はまだKenwoodのポータブルカセットプレーヤーを使っていたはずで、かさばるし、重いし、面倒な上に今から思えば音質も悪く、とてもではないがあの頃には戻れない。

 コンサート会場ではグッズの販売もないので、10月7日にリリースされたばかりのDVD/Blu-ray『薬師丸ひろ子Premium Acoustic Live時の扉~Look for a Star』がまさに飛ぶように売れていて、2014年12月にビルボードライブ東京でのパフォーマンスを収録したもの。このライブ版に限った話ではないのだが、もうライブアルバムをCDで出せることはないと思うし、DVD/Blu-rayでのライブ映像が公式に出るのは良いとしてCD版もつけてほしい。ローリング・ストーンズのライブDVD/Blu-rayブートレグはたいていCD付きの仕様になっていて、さすがファンの使い勝手に通暁していてありがたい限り。映像版は家でじっくり観るにしても、ライブ音源はやはり外で自由に聴いていたい。
 コンサートについては毎回アレンジャーがトータル・コンセプトを統括し、その都度、独自の世界観を提示しているのだが、音楽活動も再開後、定着してきたところで今後ほどよく異質な表現者ともコラボレートできるといいなと思う。『ど根性ガエル』(2015)の「ひろしの母」役に薬師丸をキャスティングするなんて普通は思いつかないところがおもしろいわけで、宮藤官九郎脚本『木更津キャッツアイ』(2002)以降を分岐点として今の再評価に繋がっている。
 ちょうど来年2016年は「セーラー服と機関銃」(81)による歌手活動のスタートから35年になるし、初期作品は松本隆や竹内まりや、伊集院静、中島みゆきをはじめ、映画だけでなく音楽の領域でもさながら歌謡曲の実験場のような多様性が魅力だった。個人事務所であることもあって制約はあるだろうが、50歳を超え、円熟の境地にある彼女に対して新旧の表現者がどのような曲をぶつけることができるのか。オリジナルによる新譜が難しいとしたら、ファーストライヴツアーが4枚目のアルバムに基づくものだったので、松本隆プロデュースによる3枚目のアルバム『花図鑑』(1986)などアルバムの旧譜をじっくり掘り起こしていくのもおもしろい試みになるように思う。



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