借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2015年12月29日

「突然、女の子が15センチほどに小さくなってしまったら・・・?」

そんなありえない仮定の物語が時代を超えてくりかえし描かれ、現在放映中の『南くんの恋人~my little lover』(全10話)は4回目の映像化作品となる。

内田春菊によるマンガ(『南くんの恋人』1987/『ガロ』初出)を原作にしたもので、このたびも「新装オリジナル版」が刊行されている。新たに加えられた文章やエッセイマンガなどもなく、そっけない表紙はやや残念だが、原作と映像化作品のトーンの違い、エンディングの解釈などをめぐり、作者を巻き込んで議論になってきた経緯もあり、刊行から30年近くたってもはや「古典」の域に達しているということでもあるのだろう。

1990(TBS/2時間ドラマ)石田ひかり・工藤正貴
1994(テレビ朝日/10話+スペシャル編)高橋由美子・武田真治、岡田惠和脚本
2004(テレビ朝日/11話)深田恭子・二宮和也、中園ミホ脚本
2015(フジテレビ/10話予定)山本舞香・中川大志、新井友香脚本

25年におよぶ映像化作品のファンもそれぞれあり、注目度も高いはずなのだが、月曜深夜2:35~3:30の放映でしかも関東ローカルとは一体何なのだろう? 朝型派も夜型派もさすがに交錯しえない「月曜から夜ふかし」どころじゃないド深夜で、潜在的な視聴者層をも一切拒むような時間帯に、学園ドラマの王道のような作品はシュールにしか映らない。そうはいってもテレビの見方も変わってきているわけでネット上での「見逃し再生」も充実しており、届くべき層には伝わっているのだろう。

しかも11月スタートでようやく軌道に乗ってきたところで年末年始の特別編成が入り、全体で10話中現在は6話までで中断。既発表分までをDVDで発売するなど途中で話題を盛り上げる期待も見込まれているのかもしれないが、効果としてはどうなんだろうな。個人的にはものすごくリズムに乗りにくいサイクル。放映開始前の特別番組もバレーボール中継の延長に伴いしょっぱなから「放映が流れる」など試練続きではあったのだが、現実離れしたベタな設定に対して、家族や地域(千葉県館山市)の詳細、主要人物の葛藤などを丁寧に描き込んでおりメリハリが巧く効いていて回を追うごとにおもしろくなっている。

もともと原作は1巻本であり、長編作品ではないのだが、その分、作り手の想像力をふくらませる余地があるところが複数の翻案作品を生み出す土壌となっているのだろう。「『いたずらなKiss 2』(フジテレビ系列、2014-15)のスタッフ(小中和哉監督)が結集」という触れ込みだが、私としてはドラマ『祝女』(2010-12)の脚本家・新井友香の作品という印象で、芝居がかったコミカルでテンポのいい演出や、女子のめんどくさい感じがこれまでの版と比べて際立つ特色と言えるように思う。

個人的にはヒロインのちえみ役を演じている山本舞香のベスト・パフォーマンスはドラマ『13歳のハローワーク』(2012)なので、もう少しツンとしたクールな感じのキャラの方が彼女には合っているように見えるのだが。こんな騒がしくてめんどくさそうな女の子役でいいのかな?(中川大志ファンからウケが悪そうでちょっと心配)。三井のリハウスガール(14代目、2011)、JR東日本SKISKIキャンペーン、映画『桜の雨』(2016)主演・・・と着実にキャリアを重ねてはいるものの、もう一歩という感が残るのでぜひとも代表作になってほしいのだが(だいたい三井のリハウスガールは14代で終わったのか? 何となく打ち切りだとしたらひどすぎないか?)。

それはともかく、くりかえし映像化されている古典マンガ作品ということもあり、原作と異なるオリジナル・エンディングが用意されることは企画発表時から示されており、作品の世界観が一番現れるところなので今後の展開が楽しみ。

『南くんの恋人』は内田春菊の初期作品に位置づけられるもので、思春期女子の疎外感をテーマにした『物陰に足拍子』(1988-91)、「普通の女の子(らしくしなさい)」という規範に対する不自由とそこからの解放を描いた『幻想の普通少女』(1987-92)などと並ぶ代表作であるのだが、「突然、女の子が15センチほど(原作は16センチ」に小さくなってしまったら・・・?」という仮定の設定をもとにした寓話形式の物語で、後年、作者が「小美人ポルノ」と言及しているように、十代男女の異性の身体に対する関心なども主要なテーマとなっている。ドラマ化の変遷の中で南くんのキャラクターは変化(進化?)していくことになるが、もともとの原作の南くんは平凡でおとなしい高校生男子で、それぞれの家族もほぼまったく描かれず2人だけの世界になっているために、恋愛や学園ドラマの要素などはほぼ入ってこない。

これがドラマ化となると、ド深夜の時間帯であったとしても、当然のことながら「小美人ポルノ」の展開をたどることはないわけで「純愛」の要素が強調される。プラトニック・ラブ・ファンタジーと「小美人ポルノ」的寓話という相反する要素が同じ物語を軸に成立しうるのもおもしろい。

「小さくなってかわいい女の子を守ってあげる男の子」という家父長的な構図もなんとなくドラマ版ではぼかされるのだが、2013年に内田春菊によって発表されるマンガ『南くんは恋人』(女性向けマンガ雑誌『Cocohana』にて連載)では、小さくなる男女が逆転し、南くんの方が小さくなってしまう。『南くんの恋人』刊行25周年を記念しての企画であり、ドラマ版も含めた往年の作品のファンが期待する中で、身体が小さくなった南くんは「かわいい」どころか自信を失い、心までもが小さくなり、すっかりわがままで嫌な奴になってしまっている。誰の気持ちをも幸せにしない25周年記念企画となっているところが何といっても素晴らしい。翻って、「女の子が小さくなってかわいいよね」と思ってしまうとしたらそれは一体何なのだろうと考えさせられる。十代の身体や心についての捉え方、性別による社会や人間関係のあり方についてなど、内田春菊の初期作品はもう少しちゃんと評価されてもいいのにな。

2015年のドラマ版は主人公の二人に子どもの頃からの幼なじみという設定を加え、「一寸姫」のおとぎ話を踏まえた上に、ヒロインのちよみが小説を書くのが趣味という人物造型を施すことによってファンタジーが成立する背景を下支えしている点も巧い。







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