借りてきた猫のように

――フィクションの中で生きる~映画・小説・音楽・マンガなどの日常――

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2016年1月3日

 アメリカのマンガ文化は男の子中心で、というのはよく言われることだけれど、その一方で女の子文化としてのヤング・アダルト(YA)小説やティーン向け映画は発展を遂げてきており、その流れは近年マンガ文化にも繋がってきているようだ。
ジェニファー・L・ホルム(1968- )&マシュー・ホルム『サニー・サイド・アップ』(2015)はペンシルヴァニアに住む十歳の女の子サニーがおじいさんの住むフロリダでひと夏を過ごす話。フロリダといえばなんといってもディズニー・ワールドなので、さっそく連れて行ってもらえることをサニーは期待していたのだけど、「あんなところは観光客用の罠だから」と相手にしてもらえない。温暖な気候で退職して移り住む街という印象が強いフロリダの土地柄、周りはお年寄りばかりで年齢の近い子どもの姿を見かけることも少なく、サニーは早々に退屈してしまう。そんな中、地元に住むアメコミ好きの男の子バズと友達になって、アメコミの世界を紹介してもらったり、ゴルフ場のロストボールを拾い集めて持っていくとお金をもらえたり、川にはアリゲーターがいたり、と徐々に世界が広がっていく。一回読むだけでは構成がわかりにくいのだが(よく読むと回想と現在が交錯して物語が展開している)、もともとは夏に家族旅行を予定していたはずが「女の子の一人旅」となってしまった背景に家族をめぐる問題があったことが明かされる。「著者あとがき」においても、ドラッグやアルコール依存症の問題を抱える身内がいた場合に子どもが抱えてしまうであろう心の問題が作品の主要テーマの一つであったことが示されている。作者のジェニファーとマシューは姉弟でこの作品は「半自伝的」作品であるという(設定されている年代も1975-76年)。
特別なことが起こるわけでも、男の子との間に恋愛や初恋の感情が芽生えるというわけでもなく、おじいさんとの間の交流も特にいつもずっと一緒に過ごしているというわけでもないのだけど、でもたぶん確実にサニーにとって忘れられない特別な想い出になるだろうという十歳の女の子のひと夏の冒険物語。タイトルの「サニー・サイド・アップ」は目玉焼きを意味する言葉と女の子の名前をかけて、「ずっと明るく笑顔でいてほしい」というおじいさんの言葉から。この作品は日本でもぜひ紹介(翻訳)されてほしい。現役の少女読者だけでなく、かつて少女(少年)だった人たちにもお薦め。
ジェニファーは児童文学で定評あるニューベリー賞受賞作家で、『ペニー・フロム・ヘブン』(もりうちすみこ訳、ほるぷ出版、2008)、『14番目の金魚』(横山和江訳、講談社、2015)などの翻訳(小説)がすでにある。日本の児童文学の翻訳受容はさすがにすごい。

 レイナ・テルゲマイヤー(1977- )『スマイル』(2010)は、小学6年生の女の子の話で作者と同じレイナという名前が付されていることからも高校までを描いた「自伝的回想録」(グラフィック・メモワール)。はしゃいで遊んでいた際に前歯を2本折ってしまい、その後、思春期の長い間にわたって義歯や歯列矯正、手術などに悩まされることになってしまう。この年代の女の子にとって歯の問題を抱えてしまうことは大きなハンディになりうるもので作者自身思い返すのも辛い体験であったようだが、作品の発表後、読者から同様の体験に根差した共感の反応を思いのほか多く得たそうだ。ニキビができたり、突然髪の毛が巻き毛になったり、第二次性徴に伴って体つきが変わっていったり、好きな男の子のことや、男子にからかわれたり、授業中に女子同士で手紙をまわしているのを先生に見つかって怒られたりなど・・・、日本のマンガだと今さら物語の素材になりそうにないぐらいどこにでもありそうなありふれた話がアメリカの女の子を主人公にしていることでひときわ新鮮に映る。前歯を失った最初の頃は笑顔をうまく作れなかった主人公が自然に笑えるようになるまでを描いており、時代・世代を超えて読み継がれる作品になりそう。

 アン・ハリデイ(1965- )&ポール・ホップ『ピーナッツ』(2012)は、高校入学前に親の事情で転居してしまったことから新しい場所で新しい人間関係を作らなければならなくなった女の子が主人公の物語。思春期特有の自意識の現れからか、ピーナッツ・アレルギーがあるという嘘をついてしまい、緊急時のための「メディカルIDリストバンド」を腕につけ、学生食堂で食事を注文する際にはピーナッツが成分として入っていないことを確認してもらうなど特別扱いをされることで、ちょっとだけ得意になったりしている。よりによってそんな嘘つかなきゃいいのにというのは誰しもが思うことで、この設定だけで結末に何が起こるか先が読めるのだが、まあそういうどうでもいい自意識のあり方や浅はかさもまたこの年代特有なものであるわけで、まったく新しい環境で人間関係を作らなければいけない緊張感や、担任の先生、学校看護師(スクールナース)、親や友人たちなどとの間の繊細な人間関係などが丁寧に描かれている。作者のハリデイは、主にライター(コラムニスト)、ノンフィクション作家であり、演劇で役者などもやっているようだが、この『ピーナッツ』が最初で、今のところ唯一のグラフィック・ノヴェル作品。

 ティーンの女の子を描いたマンガ(グラフィック・ノベル)と一口にいっても、もちろん描かれる年齢によっても、その主人公の性格類型によっても多様であるわけで単純に概観することはできないものであるが、『サニー・サイド・アップ』と『スマイル』はヤング・アダルト小説の流れに繋がる潮流と言えるものであり(実際、児童書を得意とする同じ出版社[スカラスティック社]から刊行)、一方、『ピーナッツ』は現役のティーン向けというよりは大人の読者を想定したグラフィック・ノヴェル。
それぞれ重なりあう面もあれば、手法や読者層など異なる面もあり、「女の子を描いた/女性アーティストが描いた/女性読者を想定した」物語の多様性が窺えておもしろい。とはいえ読者のレビューからは思春期を扱っている視覚文化に対する戸惑いの方が大きいようで、「娘のために買ってみたものの不適切な表現が多いので心配」という反応が散見される。ヤング・アダルト小説の方がはるかに表現では先をいっているはずだが・・・。そういった反応を含めてもこれからの展開がますます期待される領域。



















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